新車を購入したり、エンジンのメンテナンスをしたりすると「慣らし運転」が必要だと聞いたことがある方もおられるでしょう。一昔前は慣らし運転をするかどうかで、エンジンの調子を左右するものでした。
しかし現在の車では、慣らし運転は不要ともいわれています。製品の精度が高くなっているので、慣らし運転をしなくても問題ないのです。
そもそも慣らし運転とはどのようなものでしょうか?慣らし運転やその方法などを解説します。
「慣らし運転」とは?
「慣らし運転」とは、新車やエンジンをオーバーホールした後の車において、エンジンやその他の動力伝達部品を最適な状態に整えるために行う、控え目に運転することです。この運転手法は、エンジン内部の部品が互いに滑らかに動作するように馴染むのを助け、摩擦を最小限に抑えることを目的としています。
工業製品は金属部分にバリがあることがあり、いきなり高回転で操作すると金属が削れてしまいます。その金属のバリを滑らかに取っていくのが慣らし運転です。
通常は車両購入後の最初の数百キロメートルで推奨され、メーカーによって具体的な指示が与えられます。慣らし運転には、一定の速度と回転数を保ちながら、急激な加速や長時間の高速走行を避けることが含まれます。
正しく行われた慣らし運転は、エンジンの効率を高め、寿命を延ばし、将来的な修理コストを削減する効果があります。
慣らし運転の必要性
慣らし運転は、新車やエンジンオーバーホールの後に行うことが多いです。他のパーツでも慣らし運転をすることがありますが、一般的なイメージとしてエンジンの慣らし運転があります。
新車やエンジンオーバーホール後
新車やエンジンオーバーホール後の慣らし運転は、長期にわたる車両の性能と寿命を確保するために重要です。この初期段階では、エンジン内部の様々な部品が適切にフィットし、正しく機能するよう調整されます。慣らし運転によって、ピストン、シリンダー、ベアリングなどのエンジン部品が滑らかに動くようになり、摩擦や摩耗を最小限に抑えることができます。
通常、メーカーは特定の距離や期間を定めており、その間は高速運転や急加速を避け、一定の回転数内での運転を推奨しています。慣らし運転を適切に行うことで、エンジンの効率が向上し、将来的な大規模な修理のリスクが低減し、燃料消費の効率化にもつながります。
このプロセスは、新車の性能を最大限に引き出し、長期にわたってよい状態を維持するための第一歩となります。
慣らし運転の主な目的
慣らし運転の目的は、以下の通りです。
- アタリをつける
- エンジンの性能を引き出す
- エンジンのバリを滑らかにする
アタリをつける
慣らし運転の主な目的の1つは、エンジン内部の部品に適切な「アタリ」をつけることです。新車のエンジンやオーバーホール後のエンジンでは、ピストンリングとシリンダー壁が完璧に密着していないことがあります。
慣らし運転によって、これらの部品が徐々に適切に馴染み、エンジンの密閉性と効率が向上します。このプロセスは、オイル漏れや燃焼効率の低下を防ぎ、長期的なエンジンの耐久性を確保するために重要です。
エンジンの性能を引き出す
新車または修理されたエンジンに慣らし運転を行うことで、エンジンの潜在性能を最大限に引き出すことが可能になります。
慣らし運転では、エンジンを適度な負荷で動かすことで、部品間の適切な摩擦とスムーズな運転を促進し、最終的にエンジンのパワーと応答性を高められます。
エンジンのバリを滑らかにする
エンジンのバリを滑らかにすることも慣らし運転の大きな目的です。エンジン部品の製造過程で生じる微細なバリや粗い部分は、未処理のままではエンジン内で摩擦を生み、摩耗や損傷を早める原因となります。
慣らし運転を行うことで、これらの不純物を取り除き、エンジン部品がスムーズに動作するようになります。これにより、エンジンの寿命を延ばし、将来的なメンテナンスコストを削減することに寄与します。
正しい慣らし運転の手順
慣らし運転を必要性をチェックする
慣らし運転の必要性をチェックすることから始めます。新車またはオーバーホールしたエンジンであれば、メーカーは通常、慣らし運転の推奨ガイドラインを提供しています。このガイドラインには、慣らし運転を行う理由と期間、必要な手順が含まれていることが多いです。
慣らし運転の手順に従うことで、エンジンの寿命を延ばし、将来のパフォーマンスを最適化するための基盤を築くことができます。オーナーズマニュアルを確認し、推奨される手順に従って慣らし運転を計画することが重要です。
適切な回転数範囲での運転
適切な回転数範囲での運転は慣らし運転において非常に重要です。多くのメーカーは、特定の回転数範囲内でエンジンを運転することを推奨しており、これは通常、エンジンの回転数を中程度に保つことを意味します。
高回転は避け、むやみにフルスロットルを使うのも避けるよう勧められています。この期間は、エンジンとその部品が適切に慣れ合い、性能を発揮できるようになるまでの重要な段階です。この段階での穏やかな加速と定速運転は、部品の適切な馴染みを促進します。
「急」な操作を避ける
慣らし運転中には「急」な操作を避けることが推奨されます。急加速、急ブレーキ、急な車線変更などは新しいエンジンに無駄なストレスを与え、摩擦や摩耗を引き起こす原因となり得ます。
特にエンジンやトランスミッションがまだ新しい状態の場合、このような過度な操作は機械的な部品の早期劣化を招くことがあります。慣らし運転では、穏やかな運転スタイルを心掛け、エンジンがスムーズにかつ均等に馴染むように運転することが、長期的な車両のコンディションを保つ鍵です。
慣らし運転の期間と走行距離
慣らし運転の期間や走行距離は、メーカーによって異なります。国産メーカーでは、慣らし運転は不要としている場合もありますが、部品がスムーズに動作するために、心がけるべき点はあります。
一般的な慣らし運転の期間や走行距離の目安
慣らし運転の期間と走行距離は、新車またはエンジンをオーバーホールした車両に対して重要です。一般的に、慣らし運転は最初の1,000kmから1,500kmで推奨されることが多く、この期間中に車は低から中程度の速度で運転されるべきです。
具体的な期間はメーカーや車種によって異なるため、車両のオーナーズマニュアルで指定された指示に従うことが最も良い方法です。この初期段階では、エンジンの回転数を特定の範囲内に保ち、全力加速や最高速度での長時間走行を避けることが推奨されます。
また、短い距離の運転を繰り返すよりも、適度に長い距離を一定の速度で走行することが望ましいとされています。この慣らし運転期間を通じて適切なケアを行うことで、エンジンの性能を想定されているものにして、トラブルを避けるのです。
車種やメーカーによる違い
慣らし運転における期間と走行距離は、車種やメーカーによって異なります。高性能車やスポーツカーの場合は、より長い慣らし期間が必要となるケースもあるでしょう。また、特定のメーカーでは、よりスポーティなエンジンのために、慣らし運転に関する特別な指示を提供しています。
オーナーズマニュアルには、その車両に最適な慣らし運転のプロセスが詳細に記載されており、適切な回転数、走行速度、そして期間が指定されています。
慣らし運転を正確に行うことで、エンジンの性能を最大化し、長期的な信頼性を保つことが可能になります。そのため、新しい車を手に入れた際には、メーカーの指示に従って慣らし運転を行うことが重要です。
- トヨタ:必要なし
- ホンダ:基本的に不要。ただし急発進を避ける
- スズキ:基本的に不要。ただし慣れるために急操作を避ける
- 日産:走行距離2,000kmまで必要。特にGT-Rは必要。
- マツダ:ロータリーエンジンは必要
- 三菱:eKワゴン、eKクロス、eKクロス スペース、eKスペースを除く全車は不要
もちろんメーカーによって不要とされている場合も、一般的な安全運転をしていれば部品のなじみが出てくるというのが各メーカー共通している点です。そのため、慣れるまでは急激な操作を避けるとよいでしょう。
慣らし運転と燃費・長寿命への影響
エンジンの状態と燃費への影響
エンジンの状態は燃費に大きな影響を与えます。新車の慣らし運転は、エンジン部品が最適に機能するように適切に馴染むことを保証するために不可欠です。部品が正確に馴染むことで、エンジンの効率が向上し、燃料の完全燃焼が促進されます。
完全燃焼は、無駄な燃料消費を減少させ、燃費を改善するために重要です。慣らし運転を適切に行わないと、エンジンの不均一な摩耗や潤滑不足が生じ、これが効率の低下と燃費の悪化を招く可能性があります。
したがって、新車を購入した後の慣らし運転は、長期的な燃費性能にとって重要なステップとなります。新車が納車された直後よりも、慣らし運転が終わった後の方が燃費がよくなる傾向があるからです。
慣らし運転はエンジンの寿命に影響する
慣らし運転を正確に行うことは、車の長寿命化にとっても重要です。この過程でエンジン内の部品が適切に馴染み、均等な摩耗が促されるため、エンジンは初期のうちから最良の状態で運転されることになります。
この初期段階での注意深い扱いが、将来的に発生する可能性のあるエンジン関連の問題を予防します。不適切な慣らし運転は、エンジンの早期の故障や性能の低下に繋がり、これが車両の全体的な寿命に影響を与えることがあります。
正しい慣らし運転は、車両の信頼性と機能性を長期に渡って保つための基盤を築くことになるため、新車の適切な始動として非常に重要なプロセスです。
部品別の慣らし運転の考え方と方法
エンジンや他の部品別に、どのように慣らし運転を行うか解説します。
エンジンの慣らし
エンジンの慣らし運転は、納車してすぐなのか、そして走行距離を重ねた状態なのかによって異なります。
冷間始動とウォームアップ
エンジンが冷えている状態では、あまり回転数を上げないようにしておき、暖気するのを待ちましょう。その後、最初の数百kmは、エンジンの負荷がかからないように、低速で走行するのを避けます。
エンジンの回転数を急激に変化させることなく、一定を保つように心がけます。
高回転域の使用を避ける
走行距離が伸びてきたなら、エンジンの回転数を少し上げながら急激な操作をしないようにします。エンジンの回転数も3,000rpmまでに抑えていたときよりも、さらに上げてみましょう。
急激な操作は避けながらも、通常の運転を始めてみます。
オイル交換のタイミング
エンジンの慣らしをしているなら、通常よりも早いタイミングでオイル交換するのがおすすめです。最初の1,000kmから3,000km走行後にオイル交換をするとよいでしょう。
慣らし運転では金属のバリが発生する可能性もあるので、早めのオイル交換をおすすめします。
ブレーキとタイヤの慣らし
ブレーキとタイヤも慣らしが必要なケースがあります。
ブレーキの効果的な使用のための慣らし
ブレーキパッドとディスクが新品の状態では、完全に馴染んでいないために効果を発揮しにくいことがあります。
そのため、アタリが付くまで軽く、その後中程度までのブレーキングに抑えておき、ブレーキパッドとディスクを適応させます。
タイヤの慣らしの注意点
新しいタイヤは、製造工程から使用してから一皮むけてから本来の性能を発揮します。そのため、新品タイヤを組み込んですぐは、本来の性能を発揮していないため、滑りやすいのです。
一皮むけた状態なら、金型でタイヤを成形して、その後剥がしていくための離型剤がなくなります。トレッド面を本来の状態にするためにも、タイヤの慣らし運転が必要です。
トランスミッションと変速慣らし
トランスミッションも金属部品が使われているので、慣らし運転しておくとよいでしょう。
マニュアルとオートマチックトランスミッションの違い
マニュアルトランスミッションであれば、ギアボックス内でギアチェンジします。移動部分がスムーズになるように、急激な変速を避けましょう。
オートマチックトランスミッションでも、遊星ギアを使用して変速します。やはり金属のギアを使用するので、滑らかに動けるように慣らしをしておくのをおすすめします。
最近多くの車に採用されているCVTは、金属のベルトを使って変速するトランスミッションです。馴染んでくるまで、不必要な負担をかけないように慣らし運転をしておきましょう。
変速のタイミングと方法
トランスミッションの慣らし運転ですが、マニュアル車ならエンジン回転数が高くなりすぎないタイミングで変速します。その際も、一呼吸置いて確実な操作ができるようにしましょう。
オートマチックやCVTは、自身のタイミングで変速できませんが、それでもソフトにアクセル操作することで急な変速を避けられます。
サスペンションと慣らし運転
サスペンションには金属部品の他に、ゴム製品も組み合わされます。やはり慣らし運転をすることで、よい状態に保てます。
道路の状況と適切なスピード
道路状況によりますが、激しい動きにならないようにハンドルを切りましょう。わだちや穴が空いているなら、大きな動きにならないように滑らかな路面を走れるようにします。
また、オフロード走行や過積載、高速でのコーナリングなどサスペンションに負担がかかる走行を避けましょう。
サスペンションへの影響を考えて慣らしする
慣らし運転をした後には、異音や違和感がないか点検しておくとよいでしょう。特に部品交換した後なら、締め付けが確実に行われているか、部品が馴染んでいるか確認しておきます。
現代のクルマでも「慣らし運転」は必要なのか
現代の自動車技術は進歩しているため、かつてほどの厳格な慣らし運転が必要ないとされることもあります。しかし、いくつかの自動車メーカーは、新車のエンジンや完全にオーバーホールされたエンジンに対して、慣らし運転の実施を推奨しています。
これは、エンジン内部の様々な精密な部品が互いに適切に作動し、性能を発揮するように調整されるための重要なプロセスです。
慣らし運転を行うことで、エンジン部品の早期摩耗を防ぎ、最終的には燃費の向上やエンジンの長寿命化に寄与する可能性があります。そのため、新車を購入した際は、オーナーズマニュアルに記載されているメーカーの推奨に従って、適切な慣らし運転を行うことが望ましいと考えられます。
特に輸入車の場合は、新車からどのような慣らし運転をすべきなのか、細かく記載されていることが多いです。輸入車に乗っているなら、徐々にエンジン回転数を上げていくようにしましょう。
適切にメンテナンスして車に乗ろう
慣らし運転も必要ですが、必要なのは適切なメンテナンスをしていることです。オイル交換などの定期的なメンテナンスや点検は、車のコンディションを維持するのに必要なこと。
慣らし運転も大切ですが、その後も適切なタイミングでメンテナンスをしてよいコンディションを維持しましょう。
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